『感想』屋久島に家を建てる

エッセイ・ドキュメンタリー

著者 おさないひろこ・小山内隆
出版社 連合出版
出版日 2001年6月5日
223頁

 

内容

土地は裁判所の競売で手に入れた。屋久島の伝統家屋を解体した廃材を利用し、材料・道具費四二万で屋久島にすてきな家を建てた画家夫婦の記録。創意工夫のあとがうかがえる七○枚余の詳細イラストは見ているだけで楽しい。

(連合出版より引用)

感想

この本は、共に絵に関わる仕事を行っている夫婦が、屋久島に移住して現地の廃材を使ったり古民家を解体したりして家を建ててしまうというエッセイです。
たまたまブックオフで見つけてパラパラっと中を読んで、すぐ購入を決めました。

簡単な年表を書きましょうか。
1989年に屋久島に旅行に行き、風土を気に入り、具体的に現地を見ずに競売で土地を購入
1990年1月、大阪から屋久島に移住。最初の住居は借家。夫は廃材をかき集め、妻はティピーを縫い上げる日々。秋に娘が生まれる。
1991年1月、テントとティピーを使って購入した土地に住みながら建築を開始。赤子を育てながら薪とランプで暮らす。
台風に襲われたりアルバイトをしたり夫がスランプでやる気をなくしたり、色々あって屋久島移住四周年頃に見事「はらっぱ小屋」が完成
いつでも帰ってこられる場所を作り上げ、家族は1996年から国内外へ移動画廊(ギャラリーキャラバン)に出発する。

 

結論から言うと、出来た小屋は以下のようなもの
少し引用させていただきます。

広さは約9m×4.5mの40.5㎡(13坪ほど)
木造軸組工法、金物はあまり使わずに基本的に込み栓打ちで接合。
山水を引き、薪を燃料として明かりはランプ。
電気、ガス、水道などのライフラインは引かず。

廃材を最大限に活用したので、道具と資材代合わせて費用は416,746円!
こりゃすごい…
しかも大きめの道具がチェーンソーと電動のこぎり(丸ノコ?)だけで、基本的には金槌やカンナ、ノミなどの小さな道具だけで構造材も建具も作っていったようです。
ちょっと待って、本職は画家ですよね?

 

この本には多くの図が載っているのですが、絵かきが書いた本の割にはどれも芸術性よりも実用性が重視されたもので、物凄く参考になります。
実は込み栓打ちで作る具体的な軸組工法を私が知ったのは、この本がきっかけです。
著者は本に載っている数多くのノウハウをいったいどこで学んだのでしょうか?
ネットでちょっと調べても込み栓打ちの具体的な方法出てこねえよ!

本には2ページの内1ページくらいの頻度でイラストが載っています。
どのイラストもセルフビルドを行うには大変役立つもので、エッセイとしてだけではなくセルフビルド技術集としても十分使用できる良本です。

基本的なセルフビルド技術だけでなく、夫婦が実際に取った「台風で基礎石からずれた束柱をジャッキで修正する方法」とか「こまごまとした屋根の始末」とか「囲炉裏の作り方」、「製材したときに出てくる背板の外壁」、「耐火レンガのかまど」など、色々注目するものが多く、なかなかネットにも出てこない技術もいくらかあるので、個人的には永久保存版な本です。

 

なお、文章にはあまり技術的なことが載っていませんが、当時の生活状況を女性的な視点で記述しており、どういうことに苦労してどういうことに喜びを感じたかということが分かって良いですね。
家族とその周辺に関わる小事件や季節の移ろいをまざまざと感じられて、子育てしながらの開拓生活を追体験させてくれます。
というか親子でテント生活しながらセルフビルドする事例は広い世の中でも珍しく、そういう意味でもこの本は貴重なものです。

 

女性的なエッセイ、男性的な技術の両方が載っている、素晴らしい本でした。
こういう思いがけない本に出会えるから中古本集めはやめられんのです。

 

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