ぼくは猟師になった
目次
・狩猟を始めるまでの経緯
・狩猟の方法や肉の調理法を具体的に説明
・猟期以外の採集と生活まで
狩猟を始めるまでの経緯
作者の千松信也さんは、特に農家の息子とか親戚に猟師がいるとか、そういう背景は無かったようで、単なる自然が好きな子供だったようです。
成長するにつれて人間が動物の価値を決定することに対しておこがましさを感じたりしながら、獣医を目指そうとしていました。
しかしとあることがきっかけで獣医になることを諦め、代わりに民俗学に興味を持ち、その分野の大学の学部に進学したようです。
大学名は明確には書いてありませんが、寮の描写から察するに、京都大学でしょう。
大学の授業にはあまり顔を出さず、アルバイトをしてお金を貯めて、アジア放浪を行っています。
その生活の中で、結局「生まれた土地に責任を持って生きることの大切さ」を感じたようです。
日本での具体的な狩猟に関しては、アルバイト先の先輩社員に教わっており、その人を師匠として具体的な方法を教わったり、自分で研究していったようです。
なお、大学卒業後の住まいを決定する際、「自分の家で解体が出来て、安いところ」という条件で探したところ、古民家のリフォーム等を手掛ける不動産屋にて、街にも山にも近いお堂(アトリエ)を見つけています。
ちなみにこのお堂は住居ではないので、「作業をしていて、つい、泊まってしまった」ということにして、ずっと借りて住んでいるようです。
狩猟の方法や肉の調理法を具体的に説明
京都はシカがかなり多いようで、著者も1年目で無事にシカを捕獲出来たようです。
10丁ほどくくり罠をしかけ、猟期が始まって2週間で捕らえています。
イノシシは流石にシカよりも難しいようで、狩猟を初めて3年目で捕らえることに成功しています。
著者は基本的にくくり罠で罠猟を行っています。
自作のくくり罠のカラー写真や設置状況なんかも本に載っており、大変わかりやすいです。
作成したくくり罠は大鍋で、カシやクスノキの樹皮で煮込んで金属の臭いや色を消すそうです。
他にも、設置時の臭いの消し方とか狩猟動物の行動様式やけもの道のこと、止めの刺し方など、大変具体的でわかりやすい説明が多く、狩猟をしている人にもしていない人にも、その様子が簡単に想像出来るような文章となっています。
獲物の解体方法なんかもカラー写真で説明されています。
内蔵が見えているのでこういうのが駄目な人は駄目でしょうが、動物が肉になっていく様子が克明に記録されており、普段何も感じずに食べている肉がこのような行動によって得られるものであるということを感じることが出来ます。
著者は金のために狩猟をしているのではなく、自己消費のために狩猟を行っています。
捕らえた獲物に敬意を払い、無駄の無い肉の保存や調理、毛皮をなめしてみたりなんかもやっています。
わな猟だけでなく網猟もあります。
こちらもカモ猟やスズメ猟の図解や解体の写真が記されており、素人にもその仕組や様子がわかりやすくて面白く読めます。
基本的にこちらは山の中で行うのではなく、刈り終わった水田で網を張り、鳥の集団をおびき寄せ、網を引っ張って捕らえるようです。
わな猟を行っている人はたまにいますが、網猟をしている人はほとんど見かけたこと無いので、かなり新鮮に感じました。
猟期以外の採集と生活まで
猟期を終えても著者は活発的に活動しており、山中の薪を集めて薪ストーブを使用したり、自分で薪風呂を作って使っていたりもしています。
山菜や川魚等の採集も行っています。
ツクシ、ノビル、ヤブカンゾウ、クレソン、フキ、ワラビなどなど…これらは少し寄り道したついでにおかずとして採集しているようで、趣味としてではなく日常の食事に取り込んでいます。
潮干狩りをしてマテ貝を取ったり、網を投げてコアユを取ったり、素潜りでタコを取ったり…猟期以外でも著者の行動様式の根本はあまり変わりません。
この本は、とある若い猟師の具体的な生活様式を記録しており、実用性は高いです。
しかしそのような多くの具体的な行動の裏には、著者の確かな哲学が含まれており、単に言葉だけを発して行動しない人間とは一線を画しています。
文庫版の裏のあらすじのとおりこの本は、背伸びも卑下もせず、等身大の目線で自然と向き合った著者の記録である、と私も感じます。
本の目次
まえがき
第一章 ぼくはこうして猟師になった
妖怪がいた故郷
獣医になりたかった
大学寮の生活とアジア放浪
「ワナ」と「網」、ふたりの師匠
飼育小屋のにおいがして…初めての獲物
「街のなかの無人島」へ引っ越す
第二章 猟期の日々
獲物が教える猟の季節
見えない獲物を探る
ワナを担いでいざ山へ
肉にありつく労力
シカ、シカ、シカ、シカ、シカ…
野生動物の肉は臭い?硬い?
猟師の保存食レシピ
毛皮から血の一滴まで利用し尽くす
カモの網猟は根比べ
スズメ猟は知恵比べ
イノシシの味が落ちる頃
第三章 休猟期の日々
薪と過ごす冬
春のおかずは寄り道に
夏の獲物は水のなか
実りの秋がやってきて、再び…
あとがき
文庫版あとがき
解説
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