農業に転職する―失敗しない体験的実践マニュアル

実用書・一般書

農業の厳しさと農村社会について

農業というのは長年やっていても気候変動で大きなダメージを受ける時もあるし、農業経験者であろうとも新しい作物に挑戦すると呆気なく失敗する可能性のある業種です。
本の最初には筆者が麦や無農薬ジャガイモに挑戦して失敗するときも多いことが書かれています。

みんなが同じものを作れば出来や収入は安定するかもしれませんが、やはり作りすぎると価格は下がって収入は減る。
かと言って新しいものに挑戦すると失敗してしまう可能性も高い…
だからこそ筆者は農業ではめげずに挑戦と研究をし続ける人が向いている、と言っています。

それは新規就農を考えている人も同じで、全く何も知らずに相談に行って相談センターに追い返されたとしても、めげずに勉強していくことが大事だし、農村社会で生きていくのにも重要なようです。
農村社会はやはり保守的で、新しい手法には基本的に懐疑的だそうです。
しかし研究熱心で農地の整備もちゃんとやり、農村社会に溶け込もうとするような人はその場所で信頼を得て農地や住居も手に入れやすくなる、というようなことをこの本では書いてあります。

また、農地を購入するのではなく借りようとする人も多いでしょう。
ただ、農地を借りる場合に懸念されることは、農地を整備した後に持ち主が「返せ」と言って来たり子供に相続したりして借受の方針が大きく変わることです。
そんなときは農地取得の関所のような存在(と私は思っている)である農業委員会に相談すると、借主を手助けしてくれることがあるようです。
農業委員会は基本的に農業を行う人間を優遇し、農業を行わない農地持ち主には基本的に味方しないようです。
この本にはそのような農村の組織や考えなども多く書かれており、どこの農村もそうなのかどうかまではわかりませんが、読んでいると都市部在住者にはわからない農村事情がわかってきます。

 

新規就農するためにやるべきこと

新規就農のためにはどこで何をどのような方法でどれだけの量行うか、を決める必要があります。
やはり基本のデータは農林水産省の「農業経営統計調査」(リンク)です。
このようなデータがあれば、作物毎の大体の収益と必要土地面積と必要労働時間がわかります。
やりたい作物から決めるにしろ収入から決めるにしろ、このようなデータは新規就農前に概略を掴むには大変便利なものですから、十分活用しましょう。

畜産以外(?)では基本的に収穫時期や播種時期などが大体決まっており、繁忙期や閑散期が存在します。
年中仕事をするためには繁忙期が重ならないように作物を分けたり栽培形態を変えたりする必要があるわけですが、そのための具体的なデータのまとめ方をこの本ではピーマンを例として載せています。

農業未経験者から見れば、このまとめ方は大変素晴らしいものですね。
月別の必要労働時間と作業量を調べて限界面積と必要経費を算出し、収入や変動費に減価償却費の計算、それらを踏まえた最終的な予想所得の算出。
基本的にここまで新規就農のシミュレーションを行えば、相談センターの人も積極的になってくれるし、農地を得るための農業委員会との話し合いでも大いに役立つようです。

何となく農業をやってみたい、と思っている人がいきなりここまでの計画を立てることは難しいかもしれませんが、やはり農業法人に就職して修行したりなんにせよ、最終的にはここまでやれるようになることを目標とするべきでしょうね。
詳細な計画さえ立てることが出来れば、後は行動するのみですし、他人からの助けも得られやすくなるでしょうし。

 

ただ、農業の素人視点だから間違っているかもしれませんが、この本には「自己資金の理想は二千万円以上」と書かれており、ちょっと多すぎるような気もしました。
確かに農業は事業開始してから収入を得られる期間が長いですが、二千万円の資金なんて新興企業の資本に比べたら多すぎる感じがあります。
個人的考えとしては、新規就農者は自己資金が多くあってもいきなり多くの資金投入をせずに、色んな種類の手法を少しずつ用いてどうすれば儲かりそうかという手応えを感じてから、大きな施設を建てたり機械を購入したりしたほうが良いんじゃないかなあとは思います。

 

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