『感想』山猿流自給自足

エッセイ・ドキュメンタリー

著 者 青木慧
出版社 創元社
出版日 2005年9月9日
264頁

 

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内容

団塊世代が間もなく定年を迎えるにあたり、田舎暮らしや帰農に注目が集まっている。著者は東京でジャーナリストとして活動していたが、還暦目前の1995年に兵庫県丹波市に移住。食糧の完全自給と自宅の独力建築に奮闘し、10年のうちに独自の生活空間を築き上げた。本書はその10年の集大成として、定年帰農、セルフビルド、自然養鶏、自家採種、棚田・森林再生など、農的生活で得た経験のすべてを書き下ろし、自然流の生き方を提案する。

創元社より引用)

 

感想

元ジャーナリストで、世界企業を代表とする昨今の経済や暮らしに対して疑問を抱き、自分なりの理想の自然との暮らしを叶えようとして、還暦を過ぎてから丹波にUターン(?)して山里暮らしを始められた青木慧さんの本です。
1995年頃に移住し、その10年後の2005年にこの本を出版。
山里暮らし関連の本ではほかにも「ゼロからの山里暮らし」、「やったぜ!わが家を自力建築―毒漬け住宅に住めるか」、「自然に学ぶ丹波山猿塾」を書かれていますから、いずれ読んでみたいものです。

ジャーナリストや学者などは多くの勉強をして世界・社会全体を俯瞰するような広い視野を持つ人が多いのですが、しかし頭でっかちすぎて実地に即してないような曖昧で偉そうなことをいう人が多いので、個人的にはあまり好きではない人種だったりします。
この著者も同じようなタイプでちょっと田舎暮らしをしただけで「この暮らしが正解なんだ!」と強情に言い張るような人なのかなあと思いながら本を読み進めると、「そういう人たちとは違うな」という印象を持つようになりました。

家をセルフビルドしたときはまだパソコンの使い過ぎで「右上腕外顆炎」と診断されており、ペンも握れないほどのようでした。
しかし常に工夫をし続け、身体の一部分のみに負荷をかけるような動作をするのではなく、身体全体を使った作業をしていくことで、軽い障害を持った還暦でも家を一軒建てられたそうです。
その体験の総括的感想は、「人間はやってみればけっこう出来るものだ。やってもみないで、なにがわかるか」

 


住居の近くには山林を所持している農家が多く、手入れや間伐を希望している人も多いようです。
そんな人たちと交渉し、青木慧さんは自主単独で伐採&集材を行って自宅に持ち帰って薪や用材として使用しているようです。
その方法もかなり工夫を凝らしているものばかりで、キンマ(木馬)を作って車で牽引したりトビ一本であちこちに移動したり。
とても還暦を過ぎたとは思えない働きぶりです。
危険なことばかりしているにも関わらず新たに障害が出来たりすることもなく、この本を読むだけでもますます元気になっておられるように感じます。
やはり人間は頭を使って工夫をする生物だから「若いうちにしかできないこと」なんてほとんど無いのかもしれません。

住宅も色々と工夫を凝らした機能が多いのですが、文章量の限界というのもあるでしょうがちょっとした紹介ばかりなのが少し残念か。
もう少し具体的な作り方や別の候補とかを示してくれると面白かったんですが。
まあこれは「やったぜ!我が家を自力建築」のほうに書いてあるのかな?
2002年に「百匠館」という大部分は自分で間伐して搬入した丸太で作った作業小屋も作っておられます。

ほぼ全ての部分が丸太の軸組工法で作られており、かなり凄いものだと思われますが、丸太同士の接合のコツとかが書かれているわけではないんですよね~
そこらへんをまとめてくれると個人的にはかなり助かるんですが!

 

家庭菜園も多くやっておられますが、鶏についての記述が多いですね。
この本を読むと私も鶏を飼いたくなります。
鶏は家畜としてかなり実用的らしく、雑食性だから余りものを与えたり放牧してミミズを食わせたりするだけで良いらしく、卵も多く産むし肉にも出来る。
糞は堆肥にして菜園に使用可能。
自給自足をしていくのなら鶏はかなり優秀なパートナーになるでしょうね。
イタチなどに襲われないようなちゃんとした小屋を作ってやるのが肝要ですが、基本的にたくましい動物ですから楽に飼育出来そうに思えます。
少し気になる記述がありましたが、少しまとめると、

「鶏や牛などの家畜は放牧すると妊娠するようになる。
生き物は自然や本性に反すれば根源的な本能、特に生殖本能が失われる。
人間も生き物である限り同じである、と私は考えている」

都市部の出生率が低いのは、こういうのも影響しているのかな?
仕事が高度化すればするほど身体全体を使わなくなり、新しい障害が生まれたり本能が失われていくのだろうか?

 


著者は口先だけではないご自分の理想の実物見本を作り、塾生を自分と他人とした『山猿塾』を主宰して多くの人が見学に来られたようですね。
著者の持つ技術や生き方は色々と参考になるところが多いので私も塾生になりたかったのですが、2008年にご逝去されているようです…
おそらく見学者や塾生たちの中で、青木慧さんの意志を引き継ごうとしている人たちもいることでしょう。
著者の成した人生が、どのようにして次代に継がれていっているのか、もう少し調べてみたいものです。

 

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