あなたにもできる農業起業のしくみ

実用書・一般書

イチから始める農業

この本は全国農業会議所や全国新規就農相談センターなどに在籍していた神山安雄さんによって、2006年に書かれた農業起業に関する実用書です。
新規就農希望者を支援していた立場にあったからか、この本は特に新規就農者への支援制度や相談窓口が詳しく載っています。

農業をやりたい、と言っても人によってどのような農業をしたいかというのは様々です。
野菜を作りたい人もいれば、土地利用型の穀物を大型機械を使って作りたい、畜産をしたいなど。
また、今の自分がどのような状況であるか、資金も土地も持っている帰農家、技術も金も土地も何もない非農家の人などこれも様々。
希望とする形態や今の状況によって農業の始め方も異なりますので、ひとまず希望と状況をまとめるべきです。

本には農業を目指している人の目標別に相談窓口も説明してありますので、最初の一歩をどうするかがわかりやすくなっています。

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基本的に、この本では金も土地も技術も無い若い人には、大規模・多角経営を行っている農業法人に就職することを勧めています。
農業法人で働くと、お金も得られるし栽培技術や経営技術も得られる、また地域に溶け込む足がかりにもなって、将来的に暖簾分けをさせてくれる可能性だって十分にあるわけです。
本当に一から始めるなら、学校などにお金を払いながら通うよりかは農業法人に就職した方がいいかもしれませんね。
農業法人が求める人とは、明るくて協調性があってよく働く人、これは普通の企業とは変わりません。
Iターン者や少し年をとっている人も受け入れますが、初任給は学歴ではあまり変わりません。
地元の公務員や農協職員を参考にして給料を決める法人が多いようです。

また、国や市町村などの就農支援制度の中に就農研修資金というものがあり、これは農業法人や農家で研修を受ける際に二年以内月額15万円の資金を無利子で貸し付けてくれる制度です。
国なども新規就農者を増やそうと躍起になっていますから、このような支援措置を最大限に利用するのも良いでしょう。
上手くいけば裸一貫で農業を始められます。

 

独立するための課題

単に自給自足型の農的暮らしを行いたいのなら別ですが、農業をビジネスとして行うためには、初期資金の確保、栽培品目の決定と営農計画、土地の確保が必要となります。

栽培品目やその方法は、基本的に自分の好きなものを選べば良いのですが、やはり作物毎に儲かりやすさや特徴が異なります。
以下の表は基本的な作物の面積毎の収益や時給です↓

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この表によって作物毎に大体の経営形態が分かるでしょう。
普通の大豆栽培は全く割に合わないこと、レタスの時給は高いけどそこそこ土地が必要なこと、(おそらく施設栽培の)ミニトマトは必要な土地面積が少なくて済むということ。
土地や気象条件で作物毎の収益性も異なりますが、とりあえずこんな感じで数字を掴んでいくと営農計画も立てやすいです。

また、畜産についての収益性を調べた表もあります↓

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この表によると、養鶏の経営は難しそう、肥育牛の経営は中々良さそうだということがわかります。
しかし基本的に収益も経営費も大きくて新規参入が難しそうです。
畜産が活発な北海道では新規参入を促すために、牧場のリース制度なんていうものもあるようです。

独立当初は資金面でかなり苦労することになります。
全国新規就農相談センターのデータによると、就農1年目の営農費用合計は774万円、内用意した自己資金は528万円で補助金などで借り入れた額は246万円となっています。
また、農業は初めてすぐに収益を上げられるものではないですから、生活資金も用意しておく必要があります。
就農1年目の生活費用平均は382万円だそうですが、独身20代などでは平均130万円程度で抑えられるようです。

農地を手に入れるには、買うか借りるかということになりますが、農地法の制限によって自由に入手することが出来なくなっています。
基本的に農地を手に入れる条件には、以下の4つがあります。

①取得者が取得する農地と現在所有する農地のすべてを耕作すると認められること
②取得者が必要な農作業に常時従事すると認められること
③取得後の総経営面積が、原則として北海道では2ha以上、都府県では50a以上となること。
④通作距離などの関係から見て、取得する農地などを効率的に利用して耕作すると認められること

農地の売買や貸し借りは上記4つの条件を満たし、農業委員会の許可を得ることでようやく成し遂げることが出来ます。
普通の不動産取得よりもかなり面倒くさいので、新規就農者が気軽に農業を始めることの妨げになっているように思えます。
また、住宅地よりも安い農地(畑)と言っても、売買価格は10a当たり平均100万円ほどになるわけですから、買う場合はそこそこのお金を持っておかなければなりません。
先輩新規就農者たちは基本的に土地は借りているようで、2,30代の人では7割にものぼります。
農地の売買や貸し借りを進める制度や組織は発展してきていますが、やっぱり大事なのは人柄と信用のようで、そのあたりは昔から変わらないようです。

 

というわけでこの本を読んでまとめた、技術も金も土地も無い人にとってのおススメの農業起業手順としては、

就農相談センターに相談、農業について調べる

自分の理想の作物、栽培形態、地域を決定する

自分の理想に近い農業法人に就職し、金を稼ぎながら技術を得ながら、その地域と法人内で信頼を得る

営農計画や資金計画を立てる。支援措置制度について調べておく

計画を公表し、農地や住居を斡旋してもらう

自己資本金、補助金などを利用しながら農業起業

まあこんな感じでしょうか。
この本には新規就農に関する制度や支援措置に詳しいですが、詳細な営農計画や資金計画の立て方までは書いていないので、その辺りを勉強したい人は他の本が良いかも。

本の目次

まえがき

第1章 農業のススメ

第2章 農業をはじめる道筋

第3章 どんな農業をはじめるか

第4章 農業をはじめる準備

第5章 資金を確保する

第6章 農地・住居を確保する

第7章 販売と経営を考える

第8章 農業法人に就職する

あとがき

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