傾斜地特有の資源を活用した低コスト施設栽培
傾斜地で行う農業について
田舎暮らしを始める場合、初期投資である土地代を抑えようとする人は多いはずです。
お金は抑えたい、だけど家庭菜園をしたいからそれなりの面積は必要です。
しかし安い土地というのは相応に条件も悪く、例えば傾斜地だったりします。
そのような傾斜地では建築だけでなく農業などでも悪条件だったりするわけですが、日本国内では傾斜地でも自給的農業が行われている地域が少なからずあります。
以上の理由から、傾斜地の多い山林内での農業の可能性を調べるために、表題の本を購入して読んでみることにしたのです。
この本は、主に自給的農業が行われている徳島県の、中山間部の振興や農業の効率化を目的として研究されている傾斜地農業についての学術書です。
この本によると、傾斜圃場には以下のような特徴があります。
①トラクタなどの機械が入りにくく、人力による手労働が主となる
→狭い農地内での集約的労働を必要とする園芸作(果菜類、花きなど)が取り組まれている②降雨などによる土壌流亡が発生するため、毎年土を下方から上方に移動させる土揚げ作業を行う必要がある
→土壌水分や土壌の保持を目的に畝間に茅などを刈り敷が行われている③圃場によって地形条件が異なるため、通常のビニールハウスなどを建てづらい
→トマトなどの栽培では簡易雨よけ施設くらいしか使用できなかった
(傾斜とは関係ないが、標高600m以上になると市場で評価されるレベルの特徴的な品質格差が期待できるようになる)
よって、傾斜地農業を成功させるには、どうにかして上記のような悪条件を克服しなければなりません。
この本ではその対処方法として、地形に柔軟に対応できて降雨による土壌流亡に強い平張型傾斜ハウスの開発、冬季の栽培作物、機械の改良の研究成果が書かれています。
おススメの傾斜地農業方法
この本のメインである平張型傾斜ハウスとは、建築現場でよく足場として使われている鋼管とクランプを主に使用し、屋根の傾斜は地面と平行している片流れとなっているものです。
普通のビニールハウスのアーチ型ではなく角型ですので鋼管の組み立てなどは素人でもできるし、汎用的な部材を使用するのでホームセンターなどで材料の全てを調達することもできます。
研究結果によると、資材費は1㎡単価で約3000円、施工人日は1㎡あたり約0.2。
1反(10a)だと資材費は3百万円、200人日くらいかかりそうですね。
個人的な発想ですが、鋼管ではなく竹を使用するともっと安く抑えられそう。
平張型傾斜ハウスは片流れ屋根ですので、斜面下方に雨水が集中します。
その対策として雨水流下場所に排水管を設置する必要がありますが、屋根面積や降雨確率(何十年に1回の雨とか)から流量を予測し、それに対応する大きさの排水管としなければなりません。
排水管の大きさをどうすれば良いかということをわかりやすくグラフでまとめたものが載っていましたので、転載しておきます↓
他には夏の暑熱対策として、ポンプを利用した細霧発生装置の設置、ファンによる空気の攪拌を行うことにより、外気温プラス2℃以下に抑えることが出来ています。
また、養液栽培なども試みられていますが、上部水源を利用したポンプ不要の簡易給液システムは前途有望のように思えます。傾斜地の欠点が利点に変わる可能性がありますね。
この本では主たる栽培作物を夏秋栽培のトマトとしていますが、その裏作も考えられています。
セルリー、チャービル、ロメインレタス、チコリー、クサソテツ、フキ、ギボウシ、タラノメの栽培例が載っており、どれも有望です。
上記の中では特に、セルリー、チコリー、クサソテツの記述が詳しいです。
また、他にはモノレールに乗ることの出来るクローラ運搬車の開発、従来の土揚げ機の改良、農作業を記録するソフトウェアの開発が行われています。
なお、研究成果をまとめてパンフレットとしたものが「西日本農業研究センター 傾斜地野菜関連」のウェブページにいくつか載っていますので、興味を持たれた方は見てみることをおススメします。
この本自体はかなり理数的な考えと記述方法となっており多くの数字が並んでいますので、読み始めてもなかなか欲しい答えにたどり着かないかもしれません。
傾斜地農業についての技術を知りたい方は、上記のウェブページにあるパンフレットを読んだ方が手っ取り早いかも。
本の目次
序章
1 研究の契機と支店
2 傾斜地農業研究の概観 ―四国を中心として―3 本書の構成
第Ⅰ章 傾斜畑地域における園芸生産への新技術導入の意義
1 四国傾斜畑地域の位置づけ
2 傾斜畑地域における園芸生産に対する新技術導入の視点
3 新たな技術開発の意義と必要性
第Ⅱ章 平張型傾斜ハウスの構造及び性能向上技術
1 平張型傾斜ハウスの構造・強度
2 貯水型水路による雨水の安全な排水方法
3 天窓と簡易細霧冷房による平張型傾斜ハウスの暑熱緩和方法
4 シミュレーションによる自然換気設計
第Ⅲ章 傾斜ハウス・養液供給システムによる夏秋トマト栽培技術
1 傾斜地用の低コスト・閉鎖系養液栽培システムの開発
2 夏秋トマト傾斜地養液栽培における培地と給液方法
3 中山間傾斜地における傾斜ハウスおよび傾斜地対応型養液提供システムを用いた夏秋トマトの実証栽培
第Ⅳ章 傾斜ハウスを利用した冬季作物栽培技術
1 低温性作物の冬春期への導入
2 山菜のふかし栽培技術
3 ブルーベリーのコンテナ養液促成栽培
第Ⅴ章 軽労化技術、情報処理技術
1 モノレール対応型クローラ運搬車の開発
2 土揚げ作業の軽労化
3 農作業を簡易に記録するソフトウェア
第Ⅵ章 開発した体系化技術の経済性と農家の評価
1 実証経営の概況および地域における夏秋トマトの生産・販売
2 開発した栽培体系の経済性評価
3 開発した栽培体系に対する農家の評価
4 要約と残された課題
終章 中山間傾斜地研究に対する次世代の挑戦
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