農村起業家になる
目次
・農山村を題材とした起業の基本的な考え方
・ソーシャルビジネスの記述が多い
農山村を題材とした起業の基本的な考え方
この本は、4回の起業経験があり、現在は山梨県北杜市白州町で設立したNPO法人「えがおつなげて」の代表となっている、曽根原久司さんが書いたものです。
田舎暮らしと起業の関係について書かれており、具体的な経営技術書というよりは所謂ビジネス書の分類に入るでしょう。
この本はやはりNPO法人の代表が書いたものだからか、田舎で細々と家庭菜園を営んで余った野菜を直売所で売ろうとしている人、を対象にしているのではなくて、「農山村の過疎化や耕作放棄地をどうにかしたい!」と考える社会派の人を主に対象とした内容となっています。
ですので、道の駅に野菜を出品する具体的な方法や個人事業の開業届の出し方みたいなものは載っておらず、起業家としての資金集めの方法や望まれる事業の種類、リサーチの方法などが記載されています。
この本の内容をまとめますと、基本的に農山村には資源や資源を生む土地、自然の美しさという本能的な心地の良さという強みがありますが、資源を上手く活用する人やシステムと金が足りません。
都会は農山村とは逆で、人や金が優れていますが、資源・土地・本能に訴えかける自然の心地よさが不足しています。
新しく農山村で事業を開始する場合は、わざわざ都会にすでにあるものを相手にして勝負するのではなく都会にないもので勝負することが重要であり、また都市部は金や人が余っていますのでシステムが良ければどんどん田舎に人を呼び込むことも可能というわけです。
起業に関するビジネス書のほとんどで書かれていますが、「レッドオーシャン(競争率の高い場)ではなくブルーオーシャン(競争率の低い場)を狙え」というようなことは、ご多分に漏れずこの本にも書かれています。
では農山村で行う事業の種類はどんなのがあるかというと、大体以下の5つが良さそうだと考えられています。
①農業の6次産業化(生産、加工、販売)
②農村における観光交流
③森林資源の活用
④自然エネルギー活用(太陽光発電、水力発電など)
⑤ソフト産業との連携(教育、IT、福祉など)
しかし実際に起業を行う場合、きっかけが無くてはなりません。
いきなり都会からやってきた人を全面的に信用する人はかなり少ないですから、Uターンや親戚のつてなどを利用したり、興味のある地域にひとまず住んで縁を作っていく必要があるようです。
農地の調達方法も詳しく載っています。
農地は買うにも借りるにも基本的に農業委員会のOKが無ければなりません。
しかし事業計画がちゃんとしていても、先祖代々の土地を大事にしがちな農家は耕作放棄地であってもそう易々と貸すことはしません。
と言っても、耕作放棄地の割合が多い都道府県ではそんなわがままを言う余裕はありません。
耕作放棄地を見つけてさっさと農業を始めたい方は、農林業センサスの都道府県別耕作放棄地割合の表を見て、割合の高いところに行くと得られる確率が高くなるようです。
また、起業を行うにあたって、リサーチをきっちりしなければなりません。
この本ではリサーチの具体的な方法として、以下の5つを挙げています。
①1次調査:本やネットでの調査
②ヒアリング:競合他社や地方自治体などに直接聞く
③ワークショップ:集団での話し合い
④フィールドワーク:資源地や加工場に直接赴く
⑤市場調査:物やサービスの対象など
ソーシャルビジネスの記述が多い
著者がNPO法人の代表であり、ソーシャルビジネスに分類される事業を行っているためか、個人事業的なものや営利目的の強い事業に関する記述が少なくなっています。
資金集めの方法にもソーシャルビジネス的な考えが多いですが、上手くいけば自己資金がほとんど無くてもそれなりの事業を始めることが出来るようです。
資金調達方法には以下の5つがこの本で挙げられています。
①事業収入
②会費、寄付、出資金など
③助成金や補助金といった公的な資金
④金融機関などからの融資資金
⑤自己資金
と言ってもちょっとやそっとでは②~④の方法で資金を調達することは出来ません。
住民たちや金融機関、地方自治体からの融資を得るには事業に対する信頼が無ければ絶対に不可能です。
ではその信頼を得るにはどうすればよいのかということで、この本にはその一つとしてプレゼンテーションの具体例が載っています。
実際に使用されたパワーポイント20枚が載っており、人々に訴えかけるにはどの辺りがポイントなのかということが分かりやすくなっています。
現状の課題とそこから導き出される需要、その需要を叶えるための具体的な物やサービスの紹介、運営者と運営方法、資金計画、説明している相手に対して具体的に何をお願いしているか、プレゼンテーションにはこれらが必要となるようです。
社会を巻き込んでいく方法として、イベントのことについても言及があります。
だけど「イベント貧乏症候群」という言葉が出てくる辺り、毎回毎回著者のイベントが成功していったとは限らないようですね。
とりあえずイベントでは、自分たちのやっている事業を補うような人を見つけたりして、サプライチェーン(例えば農産物が消費者の口に入るまで)を確立していくことが重要のようです。
本の目次
はじめに―なぜ、農村起業家なのか
第1章 「まず、始めるべし」の鉄則―農村起業の前夜
1 思い立った日が起業の日である
2 農村起業とは何か
3 農村起業のタネを5つのジャンルから探す
4 フィールドの見つけ方・つながり方
5 農村起業の2つの始め方について
6 農村起業の目的・目標は何か
コラム 農村起業に向く人って、どんな人?
第2章 「楽しくて小さなモデルを作り、アピールし続けるべし」の鉄則―農村起業の仕込み期
1 先輩のモデルを知ろう
2 事業モデルの作り方
3 農村起業のアピールのやり方
コラム 捨てる神あれば拾う神あり
第3章 「立っているものは親でも使え」の鉄則―農村起業の巻き込み期
1 仲間を集めよう
2 ネットワークを作ろう
3 資金調達をどうするか
4 ものの調達のやり方
コラム 農村資源は闇の中
第4章 「一石二鳥、一挙両得」の鉄則―農村起業の成長期
1 効果的なイベントの仕掛け方
2 イベントをサプライチェーンづくりに活かす
3 BtoCチャネルとBtoBチャネルを区別しよう
コラム 何はなくとも人材育成
第5章 「腐っても鯛」の鉄則―農村起業の心構え
1 農村起業は3年でめどを立てよ
2 「おらが村の自慢」になるまで続けよ
3 起業家意識を高めよう
4 「成功物語」に自分を当てはめてみる
コラム サラリーマン根性を捨てよ
第6章 「地アタマ使って頭角を現せ」の鉄則―農村起業の思考法
1 8つの思考法
2 効果的なリサーチの方法
3 地アタマで企てて積極的にプレゼン提案しよう
4 農村起業家の究極の6つのスキル
コラム 農村起業”業者”に気をつけろ
おわりに―世界に広がる農村起業
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