田舎暮らしの民俗学

目次
エッセイ・民俗資料・技術書の中間
房総における海と山の生活風景
エッセイ・民俗資料・技術書の中間
この本は1987年頃に遠藤ケイさんによって書かれた古い本で、現在のネット通販では通常扱われておりません。
たまたま図書館にあったので、借りて読んでみることにしたのです。
著者である遠藤ケイさんは現在でも多くの田舎暮らしや日本の民俗に関する本を書かれています。
この本を書いた当時は千葉房総の山中で暮らされていたようで、本の内容も房総における山と海の人々の昔ながらの暮らしを取材した結果となっております。
絵も文章も著者によるもので、どの項目にも味のある絵が載っています。
写真も多く、文章も読みやすいので、純粋に読んでいて面白い内容となっています。
内容は、具体的な自給自足の方法を書き連ねているのではなく、あくまで房総の田舎のほうの暮らしぶりを記載しています。
ですので、実用的な内容はいくらか載っているのですが、その項目に関して網羅しているのではないので、100%の実用書であるとは言えません。
ただし房総に関する文化が多く載っていますので、その地域に興味があったり住んでいたりする人は、かなり親近感を持って読んでいくことが出来ると思います。
また文章に関しては、著者がその項目に対して思ったことや昔のことなども交えていますので、やはりエッセイに近いとなっています。
まあその分、時間を忘れて面白く読めるのですがね。
房総における海と山の生活
本の内容は、春夏秋冬の房総の海と山の生活ぶりが書かれています。
田舎暮らしの本には少し珍しく、海や川での漁業の記述が半分を占めています。
漁師めしや海女たちの生活、大漁旗の作られ方などが載っています。
著者は食事に大きな関心を持っておりますが、単なる工夫をこらした美食ではなく生活に根付いた食事に関する取材を多く行っています。
漁師めしには魚の身や骨を包丁で叩いたなめろうや、なめろうに野菜をまぜて焼いたサンガというものがあり、どれも簡単かつ美味しそうなもので、自分でも作ってみたいと思えます。
山に関しては、普通の野菜作りのような記述は少ないのですが、養蜂や傾斜地農業、林業、水の確保などが書かれており、海のイメージがある房総でも豊かな山里があるのかと少し驚きます。
山の生活は海の生活と雰囲気が異なり、海の仕事は豪快なもの、山の仕事はどことなく繊細な感じがあります。(まあ伐採は豪快だろうけど)
昔はどこにも鍛冶屋がおり、鍬1つとっても人によって理想的な形状が異なり、鍛冶屋はそのニーズに応えて柔軟に対応していたそうな。
著者の小屋に水を引こうとする記録もあり、水源探しに苦労されたりしています。
生活には必然的にお金が絡んできますが、この本に載っている仕事にも一日あたりに得られる金額などが少しだけ載っています。
竹の笊や木の桶は安いプラスチック製品に取って代わられ、1987年当時においてもその職人さんたちはごくわずかになっているようです。
人の生活にはお金が絡み、非合理的なものはどんどん金銭の多寡によって篩分けされ、衰退し、消滅していきます。
しかしそのような、工業製品が手仕事の製品を駆逐していくことによって、人は遠く離れた他人や会社の恩恵を得られなければ生きてはいけなくなり、ひいてはそれらの恩恵を得るために非合理な自分自身により作り上げる生活(自給自足)をも駆逐していくことになります。
すなわち、自給自足生活を辞めることによって、人は合理的というレールに載った生き方しか出来なくなり、自分の生活が何に基いているかという実感と自由はどんどん失われていきます。
人々は画一的な生活しか出来なくなり、社会の中で生きていくことを強制され、そこで失敗したものは今後どうすればいいかわからず、ただ途方に暮れるしかなくなっていくのでしょう。
…などと著者の考えに影響されて私も考えてみました。
本の目次
春
田植え
ワカメ
海女めがね
養蜂
川ジラス漁
マンボウ
エンガ
鯛釣り
枝打ち
海士
夏
房総の捕鯨
コンニャク
漁師料理
アワチドリ
へったおし漁
桶屋
小揚げ
ウナギ捕り
農鍛冶
潜水夫
水なます
竹笊
秋
稲刈り
ウツボ
山椒
朝市
サメ
人形師
大漁旗
アケビ
めいろう士
トウミ
見突き漁
茅葺き屋根
冬
炭焼き
キンメ漁
筵編み
アンコウ
森林伐採
ハバノリ
木取り
魚の顔
ヤンゴメ
野菜屑漢方薬
水
もちつき
船祝い
注連縄
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