『感想』樹木と生きる

エッセイ・ドキュメンタリー

著 者 宇江敏勝
出 版 新宿書房
出版年 1995年
265頁

 

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内容

熊野在住のエッセイストが自分で植え育てた木を伐って家を建てた。その豊かな至福感と、山林労働や暮らしの今と昔を伝える物語。増補書き下ろしの『備長炭紀行』も収録する。

田舎の本屋さんより引用)

 

感想

とある中古本屋でたまたま見つけて、購入しました。

 

登山小屋以外の山小屋・山村での生活に関する本を探していたのですが、ようやく手掛かりとなるものが見つかりました。

著者の宇江敏勝さんは1937年に生まれ、炭焼きの家で育ち、高校卒業以降は長年山林内で働いていた、貴重な林業エッセイストの一人。

炭焼き→エネルギー革命による需要の急減→材木用の杉・檜の植林→拡大造林→→→放置された人工林、という急速に変わる時代と共に生きてきた人ですから、著者の人生を追うだけでも林業の盛衰が分かりそうです。

 

伐採道具は斧と鋸から始まり、チェンソーと刈り払い機へ。
集材は丸太を並べて滑らせる修羅と木馬から、架線へ。(現代はフォワーダやスイングヤーダなども加わる)
運材は川流しからトラックへ。

何トンもある丸太を搬出するなんて人力では無理だ、と直感的には思えるでしょうが、昔は工夫を凝らして何とかやっていたそうですね。
昔はそれぞれの作業で分担していて、木材生産林業だけでも多くの職種があったようですが、今は機械化が進んでどの作業員でも何でもするようになりました。
発展は悪いことではないですが、過去の技術を無くすのは避けたいですね。
最近注目されている自伐林業では少額投資&ローコストで行う必要があるので、昔の技術を応用できる可能性がありますから。

 

奥深い山では林道から作業地までが遠いので、現地に小屋を作って作業者やその世話をする「カシキ」が寝泊まりしていました。
食料は麓から上げてくるのが基本ですが、余暇として狩猟したり釣りしたり栽培したりして、半自給自足的な生活。
最近の林業ではこのような山小屋を作ることはほとんど無いですが、このような生活も面白そうだと思います。

山小屋は下界と隔絶された世界になりそうですが、著者の時代は人力(飛脚)で連絡したり内線電話で下界の住居と通じ合ったりしていたようです。
原始的ですが、想像すると情緒のある風景です。
現代は山中でも携帯電話を使って連絡しています。

椎茸栽培に関する記述もあり、やはりこちらでも山に小屋を建てて作業することがあったらしいです。
収穫してから市場に出すまで時間がかかるので、出来上がった椎茸は掘っ立て小屋内の炭火で炙って乾燥椎茸とし、和紙に包んで出荷していたようです。
秋に入山し、5月中頃には小屋を閉めて下山。
山を降りる時に里芋を植えておくと、入山時期にちょうど芋を付けて食べられるようになるらしいです。
私の生活にも応用できそうだぞ、これ!
というか年間スケジュールが今の私そっくりで親近感あります。

 

奥深い山中で働き暮らすものにも家族はおり、子供もいました。
子供は学校に通わせることになりますが、片道二時間も山中を歩いて通学していた子供もいるらしいです。
戦後の新しい教育基本法が出来るまでは、学校から遠すぎる住所は「義務教育免除地」となったり。
…昔の方が今よりも遥かに多様な仕事と多様な生活があったんだろうか。

 

 

昔の林業の様子と山小屋での生活の様子が分かる、良い本でした。
全体的に情緒とか、郷愁とか、そして廃墟を見るような哀愁も少しある雰囲気も良かったです。
もっとこういう本を読んでいきたいですね。

 

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