昔の造林・育林の方法とは?~林業いろは歌の紹介と現代語解説

苗木

林業いろは歌

以前読んで大変面白かった「森林官が見た 山の彼方の棲息者たち」に『林業いろは歌』が紹介されていたので、このブログでも紹介してみます。

 

このいろは歌は熊本県小国地方で、歌われていたものです。
作られた年は不明ですが、少なくとも昭和初期より前。

単なる娯楽としての歌でなくて、林業技術やコツを分かりやすく子供たちに伝えるための歌となります。

内容は今から見ればかなり古いですが、基本的な技術は今と変わらなくて参考になる部分が多いです。
そこで今回、紹介と解説をしてみることにしました。

 

(一応ネットで林業いろは歌について検索してみたけど、出てこず。作られた正確な年、他の地域のこういう技術も知りたいですね)

 


い、命を長く楽しみて、国家富ますは山仕立て

ろ、論より証拠山住まい、すれば達者で長生きす

は、花咲き実のならぬものはなく、植えて育たぬ草木無し

に、庭の草木も山の木も、植えなば選めよき種を

ほ、穂挿し、床挿し数あれど、苗は実播きが第一ぞ

苗木は挿し木で増やして育てる方法もあるが、種から育てる実生苗が一番だ

 

へ、下手なことして笑われな、杉檜の歌を読め

と、床こしらえは冬中に、モグラ防ぎに簀の子いけ

苗を育てる苗畑づくりは冬にやろう。木や竹で作ったすのこを使ってモグラを防ぐ

 

ち、地ならしよくし、東西に3尺巾のうねにせよ

地面を平らにして、うねは東西に90cm幅にする

 

り、理屈よいのはツボ2合、むらのないよう種を蒔け

1坪2合≒110ml/㎡の割合で、むらなく種を蒔く

 

ぬ、ぬからず溝の土あげて、鉄で粉にして振りかけよ

畝間の土を崩して粉にして、蒔いた種に振りかける(?)

 

る、類多ければしるし立て、覆藁きせて押さえ置け

苗木の種類が多ければ目印を立てる。覆いわらを被せて風で飛ばないように石などで押さえておく

 

を、覆藁取るは実播より。20日過ぎたる後と知れ

実を蒔いてから20日以上後に、覆いわらを取る

 

わ、藁覆い取ったその後は、かややススキの覆いに替えよ

覆いわらの後はカヤやススキの覆いに替える

 

か、かややススキの替え覆いは、1尺高さに薄くせよ

カヤやススキの覆いは、30cm高さに積み上げる(30cm高さの空中に浮かす?)

 

よ、夜は覆い取り、昼は着せ、土の乾かぬようにせよ

土が乾かないように、昼は覆いをして、夜は覆いを取る

 

た、だら肥ならば薄くせよ、粘きは苗の毒なるぞ

人糞尿で作った下肥は薄くして苗に与える

 

れ、例年4月の中頃が、種まきつけによきときぞ

4月中頃が種蒔きに良い(旧暦の4月か?新暦なら5月)

 

そ、育ちて後は見廻りて、草にせかせぬようにせよ

上手く育ち始めたら見回って、除草をする

 

つ、常に根虫に気をつけて、煤と油で駆除をなせ

常に根切り虫に気をつける。煤と油で駆除をする

 

ね、根虫の駆除は煤5合、油少しに水1荷

根切り虫の駆除は、煤:水=1:65で配合して油を混ぜたものを撒いて行う(水1荷=約60Lで計算)

 

な、夏過ぎ秋にもなりたば、気付けよ霜覆い、寒防ぎ

夏が過ぎて秋になれば、覆いをして霜害を防ぐ

 

ら、埒はあかねど床替に、翌春そろそろ手をつけよ

春になれば苗木を掘って植え直す床替えを行う(根の成長を促して強くする)

 

む、むらなく大小より分けて、3寸置きに植え替えよ

成長度合いで1年生苗を大小分けて、9cm置きに苗畑に植える

 

う、うねを正しく草取りて、便利よきよう拵えよ

畝の除草はする

 

ゐ、いつも気づき草取りて、肥がけ大事に育つべし

除草と肥料やりをやって大事に育てる

 

の、のんきなれども今一年、床を替ゆれば苗丈夫

更にもう1年育てて床替えすれば、苗木は丈夫になる

 

く、苦労多きも植えつける、床地跡あげ念入れよ

苗木が育ったら慎重に掘り取りをする

 

や、山に移すは5尺ごし、三角植えにするがよし

山に植える時は150cm間隔。三角植えが良し。
(三角植えの概略図は以下)

 

ま、間が遠ければ中浚え、間引き費が増すと知れ

植栽間隔が遠ければやり直す(?)、将来の間伐経費が高くなるから

 

け、芸と技術は外にして、雨に植ゆれば枯れはせぬ

人によって植えるのが上手い下手あるが、雨の時に植えれば枯れはしない

 

ふ、肥るところは5年にて、中切り間引きするものぞ

土地が肥えた場所では5年ほどで間伐し始める

 

こ、ここから大事がかずら切り、まがらば起こして手を添えよ

植栽後、つるが巻き付けば切る。苗木が曲がったら起こす。

 

え、枝打ちはじめは力枝、残してそれより下を打て

枝打ちの最初は、一番太い枝を残してそれより下を切る

 

て、手斧か山刀で節低く、親木いためず枝を打て

枝打ちは斧や鉈を使って、幹を傷めないギリギリで行う

 

あ、秋より寒さの始めまで、枝打ちするに好時節

秋の始めから晩秋・初冬までが枝打ちに良い季節(木の成長が止まって雑菌が入りにくく、雪が無いから作業しやすい)

 

さ、さいさい枝切り気をつけよ、雪と風との害防げ

枝打ちをして雪や風の害を防ぐ

 

き、切るな仕立てよ杉檜、檜は峰に杉は谷

ヒノキは尾根のような乾燥地に、スギは谷のような湿った場所に植える

 

ゆ、ゆめおこたらず気をつけよ、気さえつければ木は育つ

め、目先の欲に迷わずに、心のどこかに仕立つべし

み、実の取入れは秋半ば、老木から取れ杉も檜も

苗を育てる種は、スギでもヒノキでも秋の半ばに老木から取る

 

し、熟して開かぬ実を取って、蔭で乾かし種子をよれ

まだ開いてない実(球果)を持ち帰り、影で乾かして種子を取り出す

(開いてない球果は↓のようなもの)

 

ゑ、枝幹いかに栄えても、心ゆるすな火と虫と

ひ、火虫の注意怠れば、多年の辛苦も水の泡

山火事や病虫害の注意を怠ると、立派な山林もこれまでの努力も水の泡

 

も、燃ゆる思いに峰も尾も、なべて緑の山にせよ

せ、世界の国に日の本の、実力示すはこの業ぞ

す、末遠長、杉檜雲かくるまで栄えさせ

 


いかがでしたか?

かなり古い時代に作られた歌でしょうが、今の苗木作り、造林・育林に共通する点が多くて面白いです。
高性能で大型の林業機械が出てきたり、コンテナで苗木を作り始めたりと変化した技術も多いですが、基本は変わらないようで。

また、今も昔も林業は人里離れた山奥で生活しながら、広大な大地を相手にする仕事です。
昔の人も清廉な空気を吸いながら静かに暮らし、悠久の時を感じながら林業をしていたんだということは、この林業いろは歌を見ても分かります。

 

例えどれだけ世の中が変わっても技術的に変わっても、人の誇りや信念はそう大きくは変わりません。
いつまでも温故知新の精神は大事にしていきたいものです。

森林官が見た 山の彼方の棲息者たち

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