『感想』神去なあなあ日常

2018年2月11日フィクション

著者 三浦しをん
出版社 徳間書店
出版日 2009年5月16日(単行本)
355頁

 

内容

高校卒業と同時に平野勇気が放り込まれた、三重県の山奥、神去(かむさり)村。林業に従事し、自然を相手に生きてきた人々と出会い、チェーンソー片手に山仕事。先輩の鉄拳、ダニやヒルの襲来、しかも村には秘密があって・・・!? 林業に《ゆるーく》かける青春!

(徳間書店より引用)

 

感想

2014年に『WOOD JOB! (ウッジョブ)〜神去なあなあ日常〜』として映画化もされた、三浦しをん著作の林業を題材にした小説です。
ちょっと試しに「林業 小説」で検索したところ、この小説ばかり出てきてそれ以外はほとんど無し。
林業というのはかなり古くからある仕事であるにも関わらず、やはり農業などよりも注目度が低くあまり親しみを持たれてない仕事なのかもしれません。
その点ではやはりこの小説は林業を題材にしたというだけでもオンリーワンな魅力を持つものなのでしょうね。

さて、林業にも長い歴史があるためいつの時代を題材にしているかで仕事のしかたもかなり違いますが、この小説は基本的には「現代林業」を題材にしています。
例えば「緑の雇用」のこととかも出るし、チェーンソーもちゃんと出るし。
しかし最近の林業で活躍している「3点セット」と呼ばれるプロセッサ、フォワーダ、スイングヤーダのような高性能林業機械は登場しませんから、道具的には「昭和レベル」のものが多いかなと思います。
ただ出てくる道具は古いものが多くても、技術的には素晴らしいものが多く、そういう視点でも参考になるところがあります。
砂袋で幹を磨くなんて手法この小説で初めて知りましたし、下刈りのコツなんかもやったことがある人には「なかなかやんけ」と思うかも?
ああちなみに高性能林業機械を導入しているから金のやり繰り的にも効率が良い、というわけではなくあれらは1台数千万円とかしますから、元を取るのにめっちゃ時間かかります。
そのことを考えれば道具がしょぼくても、案外金銭的には有利になるときもあるというわけです。

林業というのは日本にある全産業の中でもトップクラスで危険な仕事です。
労災発生率は全産業平均の15倍(→林野庁)、労災保険料率はダム・トンネル建設、金属鉱業に次ぐ60/1000(→厚生労働省)しかも山村での生活は自然災害が起きやすく、日常生活ですら危険に満ちています。
そんな大自然にすぐ自分の命を翻弄される人生を送っている山村住民・林業家たちだからこそ、この小説のキーワードでもある「なあなあ」が映えるのでしょう。

「なあなあ」とは「ゆっくり行こう」とか「まあ落ち着け」というような意味の言葉であるとこの小説の序盤で解説しています。
しかし危険な林業という仕事、山火事で何十年もかけて築いてきたものが一瞬で崩れ去ること、クライマックスの祭りのことなど、「なあなあ」には「死んでもその時はその時か」という諦観も含まれているのでしょう。

確かにこの小説は「林業小説」ではあるのですが、実は林業と深くかかわる山村の精神性を描こうとしているのではないかと思うのですね。
この小説を知ってすぐ購入して読んだときは「林業を題材にした、都会からやってきた青年が田舎暮らしをするという、ストーリー的には普通な小説」という印象を持っていたのですが、改めて読んだら、このシンプルで半ば諦めにも似た死生観こそが、まさしく山での生き方であるということを描いているのではないかと思うようになりました。
主人公の勇気がはっきりと「やりたい」だとか思ったり、ヨキの男女の関係への願望とかも、死が間近にあるからこそあえてそういうところを露わにして「生」を描いているのでしょう。
都市部にありそうなドロドロとした男女関係や不審な死亡事故なんてものとは対極に位置するストーリーです。(清一に対する直紀の想いだけは複雑だろうけど)
文体的にも軽くて読みやすい小説なのですが、その文体の軽さそのものが山で生きる精神までも表しているように思えるのは私の穿ち過ぎかな?

 

ちなみに映画の上映は私がまだ林業関係の仕事をしていたときのことで、映画館も少ない場所でしたから、見に行った職場の人に感想を聞くと「まあなかなか良かった。でも見に行くと必ず業界人に会うから、目が合ったらちゃんと挨拶するように」と言われ、結局見ませんでしたw
どうしてプライベートでも「あっどうも、お世話になってますー!」とか言って営業スマイルしないといけないの!?

…また実家帰ったときとかに見てみるか。

 

4