『感想』木材とお宝植物で収入を上げる 高齢里山林の林業経営術
著 者:津布久 隆
出版年:2017年
出版社:全国林業改良普及協会
160頁
内容
その里山林には、価値ある商品が眠っています!
里山の林業経営書が誕生。
手入れをして「いくらで売れる?」、その「売り方は?」から、
1本数万円以上の良質木材や人気の緑化樹、特用林産物の紹介まで。
「収入をいかに上げるか」をキーポイントに明快に解説。
各章の内容と関連したコラムも楽しませてくれます。
著者撮り下ろしのオールカラー写真が魅力的です。
・里山林の更新方法
・低林・高林・中林-里山林施業3タイプ
・里山樹種-売れる木いろいろ
・収入を上げるためのポイント
感想
針葉樹林ではなく、(放置された)広葉樹林の利用について
林業と言えば、スギやヒノキなどの針葉樹を伐採して丸太を搬出する仕事、と思う人が多いでしょう。
しかしこの本は、林業のメインから外れる『広葉樹林業』をテーマとした本です。
そして更に言えば、人の手があまり入ってない・植林されてない、天然林(二次林)の利用を視野に入れている内容です。
標高・緯度の低い東北以南の低地では、山を放っておくと広葉樹が優占してきます。
針葉樹が優占するのは北海道や高標高地域くらいです。
現在生えているスギ・ヒノキ林のほぼ全ては、人が苗木を植えて育成した人工林です。
広葉樹は針葉樹よりも真っすぐな材が取れにくく、材木としての利用が難しいです。
それでもかつては薪にしたり蚕の餌である桑を利用したりと、様々な森の利用を行い広葉樹林と人間とは密接な関係となっていました。
しかし現在では、広葉樹の利用も少なくなり、広葉樹林業も衰退しきっています。
その結果各地で生まれたのが、本のタイトルにもある『高齢里山林』です。
お宝植物、というより広葉樹木材について
この本には里山に生えている多くの樹種の利用について書かれていますが、多くは材木としての利用について。
特に材木については、主要樹種の取引価格例がそれぞれ載っていて、いくらで売れるのかが具体的に分かります。
長さ・直径・質(上中下)別の価格が分かります。
要約すれば、カキノキの変種『クロガキ』が最も単価が高く、次に高いのは『ケヤキ』。
その他は直径50cm以上の大径木になるとどの樹種も高くなり、直径30cm未満は格安なものが多い、ってな感じ。
コナラ以外の直径30cm以上・2m以上長い部分がある広葉樹が多く生えているなら、丸太として売ることを考えるべき、かな?
ただ、お宝植物の利用については、実用書としては少し浅いかなと思う。
「かつては広葉樹林で紙の原料や精油を取ったりしていたんだよ~」くらいなことは書いているのですが、具体的な生産方法や販売までは書いてません。
そのくらいなら樹木図鑑にも書いてありますからね。
まあ材木以外の木の利用については全く知らない人が読めば、色々と気付きが得られると思う。
ここら辺についてはこの本をきっかけにして、読者自身で更に調べていく必要がありますね。
コナラ林の経営について
日本各地に多く分布する『コナラ』ですがこの本では、「大径化すると価値が下がる木」と言い切ってます。
だから、現代日本に数多くある大径化した高齢コナラ林では、まずコナラを真っ先に切るべし。
キノコ栽培のホダ木に使う中径コナラが最も単価が高いため。
大径コナラ・アカマツ・アカシデ・ヤマザクラが生えている典型的な里山では、ヤマザクラ以外をメインで伐り、ヤマザクラを囲むように下層木で守りつつ大径化を目指す。
というのが、この本での里山経営代表例。
なお、この樹種構成は、私の山でもほぼ同じです。
具体的に経営例を示してくれるのはありがたい!
また、広葉樹林では針葉樹林と違って、伐採後に植栽せずとも『萌芽更新』がしやすいです。
切り株からたくさん萌芽してくるのを『株立ち』と言ったりしますが、コナラなら2~5本、材木用なら1,2本に仕立てるのが良いとか。
この本は経営の基本と例を示している。具体的な方法は試行錯誤するべし
この本は放置された高齢里山林を、針葉樹林に変えなくても広葉樹林のまま経営するにはどうすれば良いか、という基本が示されています。
高齢化した広葉樹林を利用したいと思っている人、広葉樹木材経営に興味がある人にはオススメの本。
しかし、広葉樹の伐採方法や搬出方法は書かれてないし、数少ない広葉樹市場が網羅されているわけでもありません。
だから、この本を読めば誰でも簡単に広葉樹林業が始められる、というわけではありません。
細かな技術や、自分の地域ならではの売り方については、他の資料なども参考にしながら自分自身でやっていくしかなさそうです。
自分個人の場合、丸太搬出しない広葉樹林業をしてみたいのです。
丸太搬出じゃないなら、集材機械や運材機械を手に入れたりレンタルする必要も無いですから。
伐採現場で小さく加工して、バイクで商品を出荷できるくらいの林業をやってみたい。
だから、実をいうとこの本の内容が自分の事業にドンピシャというわけではなかったです。
でも、樹種別にどうすれば良いかが書いてあったので、それは大いに参考になりました。
広葉樹林は針葉樹林より数多くの樹種が生えてますが、代表樹種と代表利用例が分かりやすいのが良かった!
(補記)まずやるべきは、樹種の同定
本には書いてませんが、私個人が思う広葉樹林の利用で大事なのは、樹種の同定です。
樹種が分からなければ、どのような価値を持ち、どのような利用が出来るかが分からないですから。
そういう訳で、利用できる広葉樹林があるならまず樹木図鑑を片手に山へ入って、どんな量・質の資源があるかを調べるのがまず第一。
自分もいくらか樹種図鑑を持ってますが、デザインや説明が良い以下の本がおススメ。
図書館や専門書店に行って、自分に合いそうな図鑑を見つけるのも良いと思います!
ディスカッション
コメント一覧
拙著お読み頂きありがとうございます! 貴殿ご指摘の通り、後は自分で試行錯誤してね、になっていることは否めません。私の力不足です。ただ、最近になって、これならかなりの確率で儲かるのでは?という経営手法を見つけました。私ももうすぐ退職ですので、これを実践し、もし生業になるようであれば、再度執筆したいと思います。では。
著者様ですか!
偉そうなことを書いてしまっててすいません…
何も知らない素人の戯言として受け止めておいて欲しい、と今では思います。
挑戦は非常に素晴らしいことだと思います。
津布久様が新たな手法を確立することを祈ってます!
先日、現代農業の別冊「季刊地域」の最新号No39に新たな情報を寄稿させていただきました。「枝物」はとても有望ですよ。従来からの木材としてだけでなく、いろいろな側面から、欲しい人にいかに届けるか、売るか、儲けるか。いやー林業はまだまだ勉強する所がたくさんありますね。