『感想』独立国家のつくりかた
著 者 坂口恭平
出版社 講談社現代新書
出版日 2012年5月18日
240頁
内容
現政府に文句があるなら、勝手につくっちゃえばいい! 東日本大震災後に熊本に新政府を設立し、初代内閣総理大臣に就任した男が明かす、いまを生きのびるための技術とは? 何も壊す必要などない。ただ、あらゆる常識を根底から疑い、歩きかたを変えてみる。視点を変えてみる。そして、思考しつづける。それだけで世界はまったく別の相貌を見せ始める。ここには希望しかない!
感想
自分は基本的に天邪鬼ですから、世間で高評価を受けているこの本に対して、今回は結構酷評することになります。
そこんところ覚悟できる人だけこの感想を読むことをお勧めします。
「モバイルハウス」や「ホームレス」だとかのキーワードを持ち、他にも色々やっているらしい坂口恭平さんの本。
色んな事をやりまくっているので「職業は不詳」と言ってあげた方が著者も喜ぶことでしょう。
この本はタイトル通り国家(のようなもの)の作り方の指南書、ではなく著者の自伝&自己啓発本です。
そこんところ勘違いしてはなりません。
結論を言うと私は勘違いし、購入したことに後悔しました。
読み始めてからビックリしましたが、滅茶苦茶著者自身を押し出してくるので序論からうざったいように感じてしまいましたw
「自分は建築家とも言える、作家とも言える、芸術家とも言える、落語家とも言える」…どうでもええわ!
俺だってブロガーでありGISユーザーであり建築家であり林業家であり経理であり農家でありライダーであり林学者だったり、人間なら誰にも色々あるわい!
当たり前だろ!
この本には著者が独自に定義した言葉が頻出し、特に『レイヤー(層)』という言葉が多いです。
しかしその言葉の意味が文脈によってコロコロ変わりまくって本当にわけが分かりません。
『視点』という言葉で代替出来るときもあれば『価値観』という言葉が最もしっくりくるときもあったり。
元々レイヤーというものは3次元的な形を持つものなんだし絵も描けるんだから、図とかで著者の定義する意味を説明してほしかったですね。
『態度経済』とか『交易』とかも著者自身が意味を定義していたりしますが、これらも説明不足でありどうとでも解釈出来そう。
変な言葉使って煙を巻こうとする意識高い系(笑)みたいで好きじゃないね。
平易で分かりやすい単語だけ使って正々堂々勝負してほしいもんだ。
意味はあるのにまだ日本語で単語として誕生してないものを誕生させたのであるなら、フォロワーの人たちもそれらの言葉を使うはずです。
しかし私が今まで生きてきて、この本で用いられる単語を他人が使っているところを見聞きしたことは一回もありません。
結局、不必要な単語の開発だったんじゃないの?
憲法で生存権が認められているのに住む場所に金を払わないといけないのはおかしい、というのがこの本のなかではまだ分かりやすい主旨ですが、金のない人に対してのインフラとも言える公営住宅や生活保護に言及が無かったのは残念です。
もちろんそれらを初めとする色々な制度や物理的インフラにはまだまだ問題も多いですが、無いことはないですよね?
無理にイチから(低級な)ものを作っていくのではなく、今あるものを改良・発展させていこうと思わないの?
35年ローンはおかしいとはっきり著者は言ってますが、こういうことが言われるたびに毎回思いますが、「家を買うために35年ローンしろ」っていつ誰が言ってたっけ?
行政がそんなこと指導したっけ?
「借金して一戸建てを買わないといけない」だなんて風潮はいつ頃から出来たんだろう?
私個人としては明治時代に書かれた小説、特に夏目漱石のものを読んだりするのが趣味ですが、昔から借家の人ってかなり多いですよね?
そんな伝統もクソもない風潮に対して義務を感じている人って、多いものなの?
建てたい人だけ建てれば良いじゃん?
新しい住の形としてモバイルハウスを作ったりしてますが、う~ん、本当にこれは誰でも長期間住めるのか。
「問題があるとしたら~というところか、でも~したらその問題は解消出来そうだ」みたいな実際の生活の体験談も無いので、説得力が皆無です。
寝太郎さんは実際にやってみたから、面白いんですよね。
案なんて、誰でも出せる。実際に行動し、反省し、次に繋げられるのは極僅かだ。
後、独立国家をつくるんだから、「憲法で定められているから」ではなく「何が正しいか」で語れよと思います。
「路上生活している人がいることが憲法違反」ってのは、路上生活する自由をないがしろにしてるようにも思えなくはないです。
行政が生存権に対して憲法違反をしているというのなら、司法に訴えてみないの?
行政は憲法に逆らえないことになってるんじゃないかな?
まあ実際に行政が憲法違反したところで、それを物理的に止める手段は無いかもしれませんが。
とりあえず「独立国家」を作りたいなら、新しいルール(憲法)くらいはちゃんと定めろよと思う。
ま、結局、単なるごっこ遊びをしたかっただけですかね(笑)
王政だとか共和制だとかそういう国家の形態を一切考えずに、いきなり内閣総理大臣ですか(笑)
「~さんは~大臣に任命」って(笑)
「人にはそれぞれの才能があり、それこそが人の使命なのである」って、ご自分が色々なされていることに矛盾しないの?
自治に興味を持つのは別に良いですが、せめて近くの自治体とか自治会とか移住者たちが新たに作ったコミュニティーの始まりとか(特にヒッピーコミューン)について勉強して欲しいもんです。
あなたが必死になって作り上げた自治団体は、先人が作り上げた自治会とほとんど変わらなかった、なんて結果になりそうでな。
この本には「考えろ」という言葉が頻出しますが、全て断定口調なのが個人的に嫌いですね。
そりゃまあ断定行為はうやむやにするよりかは責任感がありそうですが、しかし著者が嫌いな社会の常識とあまり変わらないじゃないか。
社会の常識に従って悪い結果となったとしても社会の常識自体が責任を取ることはありませんが、坂口さんなら間違えた時にちゃんと責任を果たすことが出来るのかな?
「金なんていらない」と言う割には夫婦で月20万円使うとか熊本にいたら東京でいたときの月収が倍になったとか色々書いてて、ここらへんも説得力が感じられません。
実際に親子でホームレス生活を数年続けた上でお金なんていらないというのならなかなかロックンロールでカッコいいですが。
お金っていうのも、価値の数値化としてなかなか良い道具だと思うけどね。
数値化という作業が無いと「社会の常識」だとか「生き甲斐」みたいな曖昧なものでただ働きさせようとする悪に対抗しにくい気もする。
ちなみに私の場合は以下のほうが同意できますね。
正直言って、この本は私の嫌いな言葉遊びと自分語りが満載です。
とりあえずちゃんとタイトル通りのことを書けよと思う。
独立国家の記述が少なすぎる。
生存権を死守したいなら、例えばホームレスに炊き出ししたり孤児を引き取って育てるような慈善団体のほうがよっぽど具体的に行動しているだけ立派なんじゃないかなあ。
私なら著者なんかより、投資額に対する効用の大きい慈善団体を探して投資するかな。
君が大言壮語を吐いている間に、先人たちはすでに試行錯誤しながら行動しているのだろうよ。
そういう先人たちに対して敬意を払ったり受け継いだりすることは考えない人なのかな?
そう言えば坂口さんみたいな最近のそういう人たちって、ヒッピーのこととか、それ以前の時代なら出家者のこととかは知らんのかな。
今の社会が嫌いだから脱しようと考える人なんていつの世も少数派ではあるかもしれないけど、空前絶後でも何でもねえから。
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